食品技術士センターの4月の講演会~糖質制限は必要か?最近の安全情報と開発動向~ 小川浩一 技術士(生物工学部門)小川技術士事務所 代表
糖質の開発の変遷と現状
Ⅰ.糖質の基礎・・・・糖質の定義、その基礎構造
炭水化物(単糖を構成成分とする有機化合物の総称)
① 糖質(エネルギー源)・・・糖類(砂糖、グルコース(ブドウ糖)など)、多糖類(でん粉など)・・・糖化品:でん紛等を糖化(分解)したもの
・・・オリゴ糖(小糖類):重合度が2~10程度のもの
・・・糖アルコール(アルデヒド基を還元糖)
② 食物繊維(難消化性)・不溶性 ・水溶性
基本的なグルコースに基本構造などは省略
Ⅱ.異性化糖の大量製造
イエローデントコーン(340万トン)約70%⇒でん紛スラリー(240万トン)⇒
澱粉製品(生でん紛、加工澱粉)(74万トン)
⇒でん紛スラリー(240万トン)から糖化製品(166万トン)
(水飴、グルコース、異性化糖)を生産する
コストメリット、工業的大量生産、安定的な品質
⇒種皮(約10万トン)胚芽(約10万トン)グルテンミール(約10万トン)
砂糖と異性化糖の製造方法
砂糖:原料⇒原料糖⇒精製⇒結晶化⇒砂糖 (一部省略)
異性化糖:でん紛⇒酵素分解(ブドウ糖)⇒酵素異性化42%果糖⇒樹脂分画⇒果糖
⇒混合・・・・42%果糖+果糖⇒55%果糖(果糖ぶどう糖液糖)
砂糖と異性化糖の需要用(国内)
砂糖 1975年288万トン⇒2022年180万トン減少 砂糖はここ2~3年底打ち感
異性化糖 1980年約400万トン⇒2022年約800万トン
日本人の甘味料の需要量の変化(47年間)
1975年 砂糖 250万トン⇒2022年砂糖約180万トン、異性化糖約50万トン
人工甘味料約30万トン
甘味への要求は根強いと言える 糖尿病のリスクを認識している最近でも一人当たりの甘味料消費量は12%低下したのみ
・甘味度=基本は砂糖 糖類の種類と甘味度
砂糖1.0 異性化糖1.0 糖アルコール(ソルビトール0.6~0.7以下略)
ステビア100~150 アスパラテーム 100~200 一部省略
・甘味発現曲線
甘味発現と時間経過・・・果糖が一番早く発現し度合いが大きい 時間が短い
・・・・果糖ぶどう糖液糖>砂糖>グルコース>水飴>低甘味オリゴ糖
甘味発現は低くなり、時間経過が長くなる 糖類により違う
Ⅲ.機能性糖類の登場(1980・1990年代から)
・生理機能を有する糖類
オリゴ糖の形(グルコースのみ)・・・マルトオリゴ糖、分枝オリゴ糖
・・・β―グルオリゴ糖・・・ニゲロオリゴ糖・・・環状オリゴ糖α、β、γ
単糖と二糖類構造⇒結合の多様性
・・トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース
・・セロビオース、ゲンチビオース、砂糖
糖化・・・・デンプン等の多糖類を、小糖類・単糖類等に分解する化学反応
① 酸糖化法・・・酸によりデンプンを酸加水分解して糖化を行う。糖化の反応後、アルカリで中和、出来た溶液を精製、濃縮し、糖を得る。
② 酵素法・・・アミラーゼ等の工業的酵素を用いて加水分解して糖化を行う。工業的に糖化の反応後、酵素を失活し、できた溶液、濃縮し、糖を得る。
酵素とは?
生物(微生物・植物・動物)が作り出す触媒機能を有するタンパク質
分解:デンプン→オリゴ糖・ぶどう糖 変換:ぶどう糖→異性化糖(果糖)
⇒微生物培養⇒目的の酵素⇒目的の糖化品
⇒様々な化学製品・食品に応用
ぶどう糖・水飴製造の歴史①・・・シュウ酸による酸糖化(1950年頃まで)一部略
ぶどう糖・水飴製造の歴史②・・・酵素糖化法(1960年頃から)酵素による糖化
オリゴ糖製造の歴史
オリゴ糖生成酵素による糖化法(1970年頃から)
ある論文から微生物起源の各種オリゴ酵素が発見され、工業生産に繋がった。⇒新しい糖質開発の歴史は酵素開発の歴史ともいえる
苦みのマスキング~糖質による物性改善
マルトデキストリン:直鎖のラセン構造+有機化合物(香りや風味等)をトラップ
環状オリゴ糖 4個ヘキサナール(ゲスト例)6個α-リポ酸 7個(ポリフェノール:カテキン等)8個コエンザイムQ10 一部略
苦み~糖質による物性改善
β-1.6グルコオリゴ糖 モノグルコシル-ナリンジン(既存添加物)
苦みで味の切れを増す・・・応用・飲料/果汁感・濃厚感の向上
ラーメンスープ/塩味向上、スパイス感向上 一部略
Ⅳ.水溶性食物繊維の利用(1980年代~、2010年代~)
食物繊維の食事摂取基準(g/日)
15歳以上 1~10g以上不足
水溶性食物繊維の製造方法(1)
① ポリデキストロース:クエン酸触媒⇒ブドウ糖:ソルビトール:クエン酸89:10:1
熱処理⇒精製 手軽に摂取 ヒト糖消化酵素で分解不可≒カロリー0
② 難消化性デキストリン:希HCL触媒
でん粉希塩酸熱処理⇒酵素分解⇒精製⇒樹脂分画
水溶性食物繊維の製造方法(2)
③ 難消化性グルカン:活性炭触媒
グルコース⇒活性炭触媒・熱処理⇒精製
歴史①ポリデキストロース 1981年米国FDA 1983年日本許可
③ 難消化性デキストリン 1988年日本で製品化
④ 難消化性グルカ 2014年日本で製品化ン
水溶性食物繊維の食品への利用例
食物繊維としての利用以外に:飲料/ボデイ感(厚み)の付与、着色しにくい素材
今後も、食物繊維の急激な血糖上昇抑制効果は重要
Ⅴ.糖質の今後の課題
・栄養学上、糖質の必要か?~メリット・デメリット
・高甘味度甘味料について
・今後、求められる糖質の機能
日本の糖尿病患者数の推移 強く疑われる人及び可能性が否定できない人の推計人数
1970年 600万人 1980年800万人・・・・2016年2000万人
年齢階級別の推定人数(2016年)
20~29歳 0.6% 30~39歳 1.6% ・・・60~69歳28.3% 70歳以上47.5%
加齢が最大の要因
日本人は糖尿病になりやすいか?
日本人(東アジア人)は、もともとインスリンの分泌能力が低い⇒加齢による分泌能力の低下⇒糖尿病へ(食事と運動で闘うしかない)
欧米人はインスリン分泌能が高い⇒肥満
栄養学上、糖質の必要か?(1)
① グルコースの一日最低量必要量は?
・グルコースが大好きな脳細胞/グルコースしか利用できない赤血球⇒一日の使用量約130g(体格や性別にかかわらず同程度)
※脳細胞はケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸=脂肪代謝産物)も利用可能
・他にもグルコースをエネルギー源としている主な組織
腎尿細管/精巣/酸素不足の骨格筋等⇒但し、脂質・タンパク質も利用可能
・人体の「糖新生」システム:肝臓でアミノ酸や乳酸などからグルコ-スを1日約150g生成⇒グルコースの「脳細胞+赤血球」の使用量を上回る
② 糖質不足時
・疲労感、注意力の散漫、判断力の低下
・タンパク質の分解が進み、筋肉量が減少、基礎代謝量低下し太りやすく痩せにくい体質になる場合があり
栄養学上、糖質の必要か?(2)
・急激な血糖値上昇血糖値上昇が問題⇒血糖値スパイク
・インスリンは血糖値を低下させる唯一のホルモン
「中高年の方」へ、糖尿病を予防するために
・甘い液体飲料は避ける(甘い野菜・果物ジュース×、野菜や果物は○~△)
・糖質だけは×、食物繊維、脂質(油)、タンパク質と一緒に
・緩い糖質制限(一日糖質130g)
低GI・低GLの食品を選ぶ 例そば<パスタ<玄米<白米
ライ麦パン<全粒粉パン<白い食パン ナッツ<チョコレート<ドーナッツ以上
感想:糖質の最新情報を学んだ。色々な施策をしているが、糖質全体が減量されていない現実がある。モンゴロイドは糖尿病になり易いので、液体飲料は避けて
全粒粉のそばやパンを食べるとのこと。健康を維持するための努力が必要である
ためになる講義であった。最近、炭水化物に食物繊維が入ったのは良かったか
私としては、日本型食事をすれば大丈夫と思った(文責鈴木記)講演を元にして記載